すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 佐藤 太裕
大学院工学研究院 機械宇宙工学部門
機械フロンティア工学分野 材料力学研究室
教授 佐藤 太裕
[プロフィール]
○研究分野/構造力学、材料力学、構造安定論
○研究テーマ/シェル構造の力学、座屈解析など

構造・材料力学の観点から「竹」の合理性を証明
新しい材料や構造物の設計開発に活かす

竹の剛性と節の分布との関係性を構造力学的に解明

佐藤太裕教授は、土木工学、機械工学の中でも構造力学の分野で「円筒状のもの」を専門に研究している。これまで研究対象としてきたのは、水中浮遊式トンネルからカーボンナノチューブまで多岐に渡り、スケールや材料の違いも含め、構造的な特徴による座屈や剛性の違いを理論的に解明することを目指している。
「その中で、植物の構造が持つ力学的な合理性に着目し、進化の過程で植物が獲得してきた形から学べるものがあるのではないかと考えました」

注目したのは、日本でよく見られる「竹」だ。竹は硬い表皮でありながらしなやかで折れにくく、節や空洞を持つなど特異な性質を持っている。佐藤教授は節の数や間隔、稈の直径、木質部の厚さなどが竹の特性とどのように関係しているかを構造力学的な観点から分析した。

「竹は非常に成長が早く、一日に1メートルも伸びることがあります。できるだけ早く高い位置に達するために中が空洞になっているのです。しかし、下から上まで全部空洞だと横風などの力がかかると折れ曲がってしまう。それを防ぐためにところどころに節が入っていると考えられています。とはいえ、節の数が多すぎると重くなり成長の速度が遅くなったり高く伸びることができない。ですから、竹は節の数を必要最小限にとどめながら、その効果を最大限に発揮できるように、合理的に節を配置しているのではないかと予測しました」

佐藤教授は、長野県にある竹林で50本の竹を採取し、根元から先端までの節の分布を調査した。一般的に竹は根元と先端は節の間隔が狭く、中間部分は間隔が広い。解析の結果、50本全ての竹が全体の曲げモーメントに最適化した分布であることが分かった(脚注1)。

「実際に計算した時には驚きました。竹の構造が理想的であることが力学的に証明され、竹が天然の傾斜機能材料であることが立証されたのです」

木質部の維管束密度が力学的理論と一致

もうひとつ、竹の軽さと丈夫さを支える重要な特性があるという。木質部の繊維の分布である。竹の木質部は「維管束鞘(いかんそくしょう)」という細くて丈夫な繊維の集合体で構成され、特に竹の維管束は鋼鉄と同程度の剛性を持つ。竹の断面を見ると、断面の内側から外側に向かって繊維の密度が高くなっている。佐藤教授は、力学理論から導いた曲げ剛性と竹の実測データを比較した結果、根元・中間・先端のどの部分でも曲げ剛性を最大にする分布であることが分かった(脚注2)。この解析結果は科学雑誌ニュートン(2017年8月号)にも取り上げられている。

「植物学などの観点から竹を研究している人や、材料としての竹を利用している人はたくさんいますが、私のように竹の特異な形と力学の関係に着目した研究をしている人はほとんどいません。そういう点でも非常に面白いテーマだと思います」

植物の「無駄のない構造」を活かした新しい材料の開発

佐藤教授は、これらの成果をもとに新しい中空円筒構造を開発したいと考えている。ひとつ目は、竹そのものを高度化させる技術。たとえば維管束に樹脂などを注入して新しい素材をつくる、いわば「ハイブリッドな竹」の開発だ。もう一つは、竹の構造を模倣した新規素材の開発で、維管束の密度分布を参考に、用途や目的に応じた設定さまざまな特徴を持つ素材の開発が可能ではないかと考えている。

「植物に学ぶといっても、経験則から単に『こうすればうまくいだろう』と真似るのではなく、なぜそのような特徴があるのか、どのようなメカニズムでその機能が発揮されているのかを理論的に解明した上で利用することが重要だと思っています。これからも、自然に潜むいろいろな形から新しいモノづくりの考え方を構築していきたいですね」


脚注1 節間長の測定結果
竹は根元の曲げモーメントが最も大きいため、根元にたくさんの節を作って倒壊のリスクを減らしていると考えられる。Ω分布と節間長の相関を計算した結果、竹の節の分布は力学的に理に適っていることがわかった。(図2、図3)
脚注2 強化繊維(維管束)の最適分布
力学理論から演繹した曲げ剛性を最大にするための傾斜分布と、実際に測定した竹の繊維(維管束)分布が見事に一致する結果となった。(図4、図5)

(図1)

(図2)

(図3)

(図4)

(図5)


橋やトンネルなどの土木建造物からカーボンナノチューブまで、さまざまな円筒状構造体に共通する原理を見つけたいと語る佐藤教授。