すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

准教授 中島 一紀
大学院工学研究院 環境循環システム部門
地圏循環工学分野 資源生物工学研究室
准教授 中島 一紀
[プロフィール]
○研究分野/プロセス・化学工学、生物機能・バイオプロセス
○研究テーマ/バイオミネラリゼーション、バイオソープション
○E-mail/nakashima[a]geo-er.eng.hokudai.ac.jp
○Tel./011-706-6322

生物の優れた機能を環境資源工学に応用
レアメタルの回収・リサイクルに貢献する技術開発にも注力

タンパク質を利用してミネラルを合成するバイオミネラリゼーション

資源生物工学研究室では、自然界に存在する生物の優れた機能を新たな発想により利用・模倣することで、私たちの生活に関わる資源・環境・エネルギー問題の解決に取り組んでいる。中島一紀准教授が研究しているのは、生物(バイオ)の力で無機鉱物(ミネラル)を作る「バイオミネラリゼーション」と、微生物を用いて金属を吸着する「バイオソープション」。

「バイオミネラリゼーションの例としては貝殻や甲殻類の甲羅、骨などがあげられます。これらは生物の遺伝子に無機鉱物を作り出す機能が備わっているということを意味します。貝殻でも人間の骨でも体のどの部分にどのような硬組織を作るかは元をたどれば遺伝子によって決められています。私たちの研究室では、生物のバイオミネラリゼーション機能を利用して土木建築や環境整備に役立つ研究を進めています」

現在取り組んでいるのは、タンパク質を使ったバイオミネラリゼーション。海綿動物が持っているシリカテインというタンパク質を利用する技術だ。

「海綿動物は体内のシリカテインを使ってシリカ(砂やガラスの成分)をつくり、硬い骨格を形成します。私はこのシリカテインに着目し、物質を固める技術や材料作製に応用できないかと考えています」

シリカテインの遺伝子をプラスミド(環状のDNA)に組み込み、大腸菌にDNAを導入することでシリカテインを大量に製造する(図1)。現在の化学工業ではさまざまな酵素が利用されているが、工業的に利用するためには酵素を固定化することが必要で、シリカテインは固定化の基材やカプセル、ゲルの作製などに使えるのではないかと期待される。

「シリカテインの特長は常温・常圧、pHも中性付近という温和な条件でシリカを重合することができる点です。通常、シリカを作るには酸やアルカリなどの化学物質を用いるため酵素そのものが破壊されてしまうことがあるのですが、シリカテインなら酵素にやさしい環境で固定化することが可能になります」

また、シリカテインを土と混ぜれば土壌を固化させることも可能になると考えられ、土木や防災分野での利用も期待できるという。

微生物で金属を吸着するバイオソープション

もう一つの研究テーマであるバイオソープションは、バイオ(生物)を使って金属などをアドソープション(吸着)する技術である。

「生物の中には金属を吸着する性質を持つものがあり、植物なども金属を取り込むことができます。私たちが注目しているのは微生物で、微生物の表面にあるタンパク質や多糖類が金属イオンを引きつける性質を利用しています(脚注1)。微生物を使う利点は環境負荷が小さく、調製も簡便であることです。微生物は栄養分を与えれば吸着剤となる自分自身を自然に増殖することができるので、製造コストの面では非常に有益です」

ただし、通常は微生物のマイナス電荷と金属イオンのプラス電荷が引き合うだけなので、吸着する金属の種類を限定することはできない。しかも微生物が吸着した金属を再度分離・回収する工程は通常煩雑になる。中島准教授はこの問題を解決するため、金属親和性ペプチドと細胞表層提示技術(図2)に注目し、微生物の表面で選択的に金属を吸着する技術の開発に取り組んでいる。

「ある種の金属親和性ペプチドは、金や白金、銀、ニッケルなどの金属と選択的に吸着することが知られています。私たちの研究では、遺伝子組換えにより特定の金属親和性を持ったペプチドを持つ機能性微生物をつくり出し、ターゲットとする金属を微生物の表面で集中的に回収する技術の開発を目指しています」

日本は資源小国でありレアメタルのほとんどは海外からの輸入に頼っているが、捨てられた携帯電話などにはレアメタルが大量に残されており「都市鉱山」とも呼ばれている。中島准教授は微生物を使ったバイオソープションで、都市鉱山からレアメタルを回収することができるのではないかと考えている。

「現在はまだ基礎研究の段階ですが、実用化されれば大きな社会貢献になると思います。今後取り組むべきテーマは選択性の高い金属親和性ペプチドの合成と細胞表層提示技術の確立です。生物の力を利用すれば環境負荷は小さいのですが、その一方で遺伝子操作した微生物は厳重な管理が必要です。さまざまな面から検討すべき課題も多いので、より安全に安定して利用できる回収プロセスを考えていきたいと思います」


脚注1 微生物を用いたバイオソープション
微生物の表面(細胞壁や細胞膜)にあるタンパク質や多糖類はマイナスの電荷を持っており、それが金属イオンのプラス電荷と引き合って吸着する。

図1

図1. 大腸菌を用いたシリカテイン作製

図2

図2. 細胞表層提示技術

写真1

写真1. 実験室内の様子