すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

准教授 山田 朋人
大学院工学研究院 環境フィールド工学部門
水圏環境工学分野 河川流域工学研究室
准教授 山田 朋人
[プロフィール]
○研究分野/水文気象学、水理学、水資源工学、地球流体力学
○研究テーマ/地球水循環、降雨流出過程、大気陸面相互作用、降雨・降雪過程、予測可能性
○E-mail/tomohito[a]eng.hokudai.ac.jp
○Tel./011-706-6188

地球規模の水循環メカニズムを解明し
環境政策や防災に貢献

世界的に注目されている水資源問題

生命の営みに不可欠な「水」。地球上には14億km3の水が存在すると言われているが、そのうち人類が実際に使用できる淡水は約0.8%に過ぎず、限られた水資源を約70億の人間が分け合っている。海外では水を巡る争いが国際問題に発展するほど切迫した状況にあり、21世紀は「水の時代」とも呼ばれている。山田朋人准教授の所属する河川流域工学研究室では、地球の水循環のメカニズムを明らかにし、水資源の予測や防災などに役立つ理論と技術の開発に取り組んでいる。

「水は、大気・海洋・陸域を降雨・蒸発散というプロセスを経て日々循環しています(写真1)。しかし、地球規模での水循環を正確に把握することは難しく、例えば発展途上国や治安の不安定な地域では雨量計などを設置してデータを取ることすら困難です。そこで、現地での精密なデータを入手するとことに加え、人工衛星から雨の分布を測定し、全球気候モデルという数値モデルを使って水循環のメカニズムを解明する研究を進めています」

地球規模での水循環メカニズムの解明は、地球温暖化などの気候変動や台風・ハリケーン、干ばつといった災害に深く関わる重要なテーマである。山田准教授らの研究は平成22年度文部科学省「気候変動適応研究推進プログラム」に採択されたほか、温暖化の影響への適応計画の参考にされるなど国レベルでの防災・環境対策に活用されている。

大陸内部の水循環を支える土壌水分
人間の活動が環境に与える影響も考慮

雨をもたらす雲は大気中の水蒸気から作られる。海に囲まれている日本では水蒸気の多くは海から運ばれてくるが、大陸内部では陸に降った雨が蒸発してまた雲になるという循環が起きている。山田准教授はここに着目し、地面の湿潤度を示す土壌水分量の計測と蒸発散に関する研究を行っている。

「アフリカ大陸の西サヘル地域はハリケーンの発生地が多いのですが、私たちの研究によると、この付近の夏の雨量は土壌の湿潤度に依存していることが分かりました。そこで、この地域の土壌表面がどの程度湿っているかをモニタリングすることで雨の降り方を予測できるのではないかと考え、大気データに加え土壌水分データを使った気象予測を行ったところ、予測精度を大幅に向上させることができました」

ターゲットとなるのはアメリカ中部、アフリカ、インド、中国の黄河流域などだが、ここは人口密集地であると同時に産業が発達している地域でもあり、河川の水や地下水が農業・工業用水に大量に使用されている(脚注1)。

「近年懸念されている海面水位の上昇の主な原因は、気温の上昇に伴う水の膨張や北極・南極の氷の溶融などがあげられますが、人間が河川や湖、地下水などを農工業に使用していることも原因のひとつではないかと考えられます。このことを取り上げた論文(山田准教授も共著)はNature Geoscienceに掲載され、大きなインパクトを与えました」

山田准教授は、このような地域での降雨の予測精度を上げるためには、土壌のことを知るだけでなく、グローバルスケールの水循環に対して人間の活動が及ぼす影響も考慮する必要があると主張している。研究室では全球気候モデルを使用した数値モデルを使い、人間の水の分配も含めた動きを計算し、高精度な予測の可能性を示した。研究成果はNASAをはじめとする世界の研究機関からも注目されている。

局地的・集中的な豪雨の予測精度を向上
研究成果を防災政策に活かす

ここ数年、北海道でも甚大な被害をもたらしている局地的な豪雨。山田准教授は突発的な水害をいち早く予測し、防災に役立てる研究にも取り組んでいる。

「2014年には広島県や北海道で記録的な豪雨があり、2015年にも茨城県の鬼怒川で堤防が決壊するという大きな水害がありました。これらは、狭い範囲に数時間にわたって大量の雨を降らせる線状降水帯(脚注2)という雨雲が原因です。本州ではたびたび水害を起こしていますが、最近は北海道でも発生が増加しています。私たちは、過去21年の気象データを解析し、発生のメカニズムや道内での発生件数増加の原因などについて明らかにしました」

山田准教授は鬼怒川の水害に関する調査団に参加し、レーダーの情報から雲の中の風の分布を推定した。データをもとに鬼怒川の線状降水帯の動きを再現し、それを気象予測の初期条件として利用することで線状降水帯の予測精度を向上させようというものだ。

「科学的に解明するだけでなく、それを防災・環境や人々の生活にどう活かすかということも重要です。研究によって明らかになった知見を、実際の防災対策に当てはめ、地域の人たちの避難計画などに活用していこうという取り組みです。現在、行政の方々とも話し合いながら検討を進めているところです」


脚注1 米国の穀倉地帯オガララ帯水層
アメリカ中南部の穀倉地帯にあるオガララ帯水層は氷河期に蓄えられた化石水で、農業用水として大量に消費されているが、近年は地下水位の低下が問題となっている。この地域で生産されている農作物の多くは日本にも輸出されており、アメリカの水資源問題は日本の食糧事情に深く関わっている。
脚注1
脚注2 鬼怒川の氾濫を引き起こした線状降水帯
2015年9月9日から10日にかけての24時間に降った雨量のデータ。にんじんのような形をした線状降水帯が伸びているのが分かる。最も雨量の多いところでは24時間で500〜600ミリの雨量を記録している。
脚注2

写真1

写真1. 水の循環イメージ図

写真2

写真2. 室内実験の様子
研究室では回転水槽実験装置を制作し、現実大気との比較実験を行っている。 底面に冷温源を配置することで 冷温源であった壁面を取り除くことが可能となり、蛇行の振幅及び砕波が観察可能となった。