すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 オリバ・ライト
大学院工学研究院 応用物理学部門
量子物性工学分野 量子機能工学研究室
教授 オリバ・ライト
[プロフィール]
○研究分野/応用工学・量子工学、音響・光物性
○研究テーマ/時間分解2次元超音波イメージング、フォノニック結晶、音響メタマテリアル

高周波数超音波の観察からナノスケールの構造を解明
実用化が熱望されている音響メタマテリアルの研究にも取り組む

超音波パルスを使った2・3次元イメージング

蛙が池に飛び込んだりするときにできる波紋。水面に広がる円形の波紋は私たちもよく目にするありふれた光景だが、波紋は液体の表面にだけ現れるものではない。ガラスや金属のような固体も刺激を与えると波紋が生まれる。特に結晶の表面は単純な円形ではなく、複雑で奇妙な形の波紋が現れるのが特徴で、波紋の形状から結晶の構造やそれが何の結晶か知ることができる。量子機能工学研究室のオリバ・ライト教授は、結晶表面に伝播する音波(フォノン)を動画としてとらえることに世界で初めて成功した。(脚注1)

「結晶の波紋は水の波紋よりずっと美しい模様を見せます。結晶の方向によって波の速度が異なるため、四角や星形など変わった形の波紋になるのです。この特性は、携帯電話が使用する周波数選別のための表面音響波フィルター素子の評価にも役立っています。」

ライト教授はイギリスの出身。オックスフォード大学を卒業後、ケンブリッジ大学で博士課程を修了、日本企業で研究員を務めたのち1996年に北海道大学の教授に就任した。専門分野は光物性と音響工学で、イメージング関係の主な研究領域は、①表面音響波実時間イメージング、②ナノ構造を見る超音波技術、③音響メタマテリアル。特にピコ秒という超短時間幅のレーザーパルスを用いた観察技術はナノスケールの構造を壊すことなく音を利用して観察することが可能になる。他の超音波測定技術よりも原理的に極めて高い周波数の音が作り出すことができ、音響表面波の2次元イメージングや微小な構造の3次元イメージングが実現できる。(脚注2)

「2次元イメージの方法で、フォノニック結晶も見えます。これは周期的に配列した構造です。私たちはミクロなフォノニック結晶上を伝わる音波の分析やメカニズムの解明に取り組んでいます。また、フランス、オーストリア、タイの研究者との共同研究では、超高速現象のイメージング技術を使ってミクロなフォノニック結晶中の通路に沿って進む高周波数の音響波を可視化することに成功しました(脚注3)」

「また、イギリスのセント・ポール大聖堂には『ささやきの回廊』と呼ばれる場所があり、円形の壁に向かってささやいた言葉が離れたところで聞こえます。これは音波が円形の壁に沿って伝わる現象です。セント・ポール大聖堂の10万倍の小さい銅でできたささやきの回廊の音響波を2次元イメージングすることができました。この場合、音の周波数は100万倍程度になります。このように微小な構造の振動周波数から、そのものの寸法も分かります。」(脚注4)

その他にも、ピコ秒超音波法による動物細胞内部の3次元イメージングやナノファイバー・ナノリング中の超音波励起・検出など多岐にわたるテーマに取り組んでいる。これらは超高周波数の超音波を使って微小な世界を解き明かす。

音の特性を応用した音響メタマテリアル

近年、ライト教授は「音響メタマテリアル(脚注5)」の分野に注力している。メタマテリアルとは電磁波や音、水面波などの波に対して特異な応答を示す微細な構造を持った人工物質である。代表的な音響メタマテリアルには負の体積弾性率や負の質量密度を示すものがあり、弾性率や密度を変えることにより音波の方向性を変えたり遮断することができる。

ナノサイズの球体でできた音響メタマテリアルにレーザーパルスを照射して振動を励起し、それを別のレーザーパルスで測定して、どのような共鳴があるか2次元イメージ実験を行っている。さらに、音響メタマテリアルの仕組みを目で見ることができる実験装置を制作した(写真1)。装置は、鉄の重りがバネでつながれている構造をしており、音響メタマテリアルが特定の周波数に反応して動く様子を見ることができる。

「音響メタマテリアルは、3Dプリンタなどでも作成できるので、近い将来に実用化されると期待されています。たとえば、音が通る窓ガラスや新型音レンズやセンサーが考えられています。また、防音効果のある壁や決められた方向にだけ音を伝える構造なども作ることができます。」


脚注1 パチャパチャ蛙(表面音響波実時間イメージング)
脚注2 3次元音波イメージング
脚注3 k空間でフォノンを見る
脚注4 ささやきの回廊
脚注5 音響メタマテリアル
音波の波長よりもずっと小さな単位格子をもつように作られた構造物。音響メタマテリアルの単位格子の構成を選ぶことで、音響的な見えない壁や音の波長よりも小さな穴を効率良く通り抜けることができるといった奇妙な性質を創ることができる。

写真1

写真1. 音響メタマテリアルの仕組みを目で見ることができる実験装置