すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 長谷川 靖哉
大学院工学研究院 応用化学部門
機能材料化学分野 先端材料化学研究室
教授 長谷川 靖哉
[プロフィール]
○研究分野/光化学、錯体化学、ナノ無機化学、有機機能材料
○研究テーマ/光物理化学を基盤とした発光性金属錯体の研究開発
○E-mail/hasegaway[a]eng.hokudai.ac.jp
○Tel./011-706-7114

3つの長谷川理論が常識を覆す
希土類錯体が切り拓く画期的な素材開発

希土類イオンと有機物のハイブリッド構造で
発光の強度を100倍に高める

応用化学とは化学の力で現代と未来の社会に役立つ研究をすること。その理念のもと画期的な研究に取り組んでいる先端材料化学研究室。教授の長谷川靖哉氏は研究のかたわら書籍の執筆やテレビ出演、高校生向けの体験イベントなどを積極的にこなし、化学に興味を持ってもらうためのきっかけづくりにも力を注いでいる。

「化学の世界では原子や分子を組み合わせてさまざまな物質をつくることができます。そして、化学というツールを使って社会に役立つ技術や製品を生み出すのが応用化学の主たる目的。原理や真理を追究する化学だけでなく、実社会に近いところで研究も行っているのが特徴のひとつです」

研究室では光と電気を自由自在に操り、最先端のナノテク材料の創出・開発に取り組んでいる。専門は光化学で、特に注目しているのが希土類(脚注1)という金属。希土類の中には紫外線などのエネルギーを与えると発光するものがあり、ユウロピウムは赤、テルビウムは緑の光を出すことで知られている。長谷川教授は希土類イオンと有機分子を合成した錯体をつくることで発光の強度を無機結晶の100倍にまで高めた材料(ルミネッセンス材料)を開発した。

「1996年に私が提唱した『長谷川第一理論』では、低振動の化学結合によって熱振動を抑制し、ネオジムを強発光させることに成功しました。これまでネオジムは有機媒体中では光らないと言われていたのですが、量子化学をベースとした新しい合成方法を組み込んだことで実現しました(脚注2)」

さらに2003年、長谷川教授は第二の長谷川理論を提唱。これは錯体の構造を非対称にすることで発光速度を加速するものである。希土類は本来光りにくいのだが、希土類の周りの有機物を非対称にするとd軌道(偶数軌道)が混じり合い光を発する(脚注3)。「電子の軌道を変化させる」という斬新な発想から生まれた理論だ。

「核となる希土類に特定の有機物(ホスフィンオキシド)をアタッチメントとしてはめることで電子の軌道を変化させます。ホスフィンオキシドは熱に失活しにくいと同時に狙った位置へ配置させやすく、まるでプラモデルを作るように分子内にパーツをはめ込むことができます。これにより世界最高効率の発光率を記録することができ、科学雑誌にも多数掲載されました」

さらに、ルミネッセンス材料はプラスチックやポリマーに混ぜて加工することも可能で、さまざまな工業製品に応用できる。光を自在にコントロールできる素材の開発は学術的にも産業的にも社会に大きなインパクトを与えた。

温度によって色が変わるカメレオン発光体
太陽光パネルの効率アップにも応用

「第三の長谷川理論は、これまで熱に弱いとされてきた発光錯体の問題を有機分子によって解決するものです。強発光と熱耐久性を両立させるために錯体ポリマー間で水素結合ネットワークを工夫することで300℃まで耐えられる錯体を開発。これを使って温度によって色が変わる特殊な塗料をつくりました」

「カメレオン発光体(脚注4)(写真1)」と名付けられたこの塗料は、耐熱性が高く200℃の高温条件下でも発光し、300℃でも分解しない。従来の電子センサー(点の情報)による温度測定とは違い、色の変化で面としての温度情報取得が可能になり、超音速旅客機やロケットの風洞実験、化学反応器の耐久実験などに応用されている。

最近の研究では、カメレオン発光体を用いることで太陽電池の変換効率を2%アップできることが分かった。希土類錯体を含むシートを太陽光パネルに装着すると、シリコン太陽電池が変換することのできない紫外光を電池の分光感度内の赤色光に変換することができるのだ。耐久性も飛躍的に向上し、実用化への期待が高まっている。

「私のベースは量子化学であり、そこからアプローチすることで従来の材料化学の常識を覆す3つの理論を確立することができました。ルミネッセンス材料やカメレオン発光体は世の中のさまざまな分野に応用できると考えられ、社会からの期待が高まっているのを感じています」


脚注1 希土類元素
スカンジウム 21Sc、イットリウム 39Yの2元素と、ランタン 57La からルテチウム 71Lu までの15元素(ランタノイド)の計17元素の総称。磁石や光ディスク、レーザー、蛍光体(ディスプレイ、LEDなど)、光ファイバ増幅器、コンデンサ、超伝導材料などに使われる。英語名で「レアアース」というが、これは発見された当時化学的に分類することが難しかったため「レア(珍しい)」と名付けられたためで、すべてが希少な金属とは限らない。
脚注2 分子の低振動化により有機媒体中でのNd(Ⅲ)の発光に成功
ネオジムを核とした錯体の周囲をフッ素原子で覆うことにより電子の振動を抑える理論を提供。遊媒体中でのNd(Ⅲ)の発光に世界で初めて成功した。
脚注3 世界初の非対称性を開発
ユウロピウムを核とする分子にホスフィンオキシドを配置することで非対称構造に分子をデザイン。最外殻の軌道が混ざることで強くユウロピウムが赤い光を強く放つ。発光効率は90%以上で世界一の強発光を実現した。
脚注2、3の詳細を参照
脚注4 カメレオン発光体
テルビウムとユウロピウムの2種類の原子を含む有機分子で構成される塗料に紫外線を当てると、そのエネルギーにより緑と赤が混ざった黄色に発光する。このとき温度によって原子に配分されるエネルギーの割合が変わり、発光色が緑から黄色、オレンジ、赤へと連続的に変化する。−100℃〜250℃までの温度を色変化によって測定することができる。

写真1

写真1. カメレオン発光体の色の変化

写真2

写真2. 研究室の様子など