すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 島田 敏宏
大学院工学研究院 応用化学部門
無機材料化学分野 固体反応化学研究室
教授 島田 敏宏
[プロフィール]
○研究分野/固体化学
○研究テーマ/有機半導体、無機ナノ材料、表面物性、結晶成長
○E-mail/shimadat[a]eng.hokudai.ac.jp
○Tel./011-706-6576

ガスバリア性能の測定・評価を革新する装置の開発
フレキシブル有機デバイスの生産管理に寄与

理学と工学の境界域で固体化学を探究
研究に必要な装置も自ら開発

2010年4月から北海道大学大学院工学研究院固体反応化学研究室の教授に就任した島田敏宏教授。前職は東京大学大学院理学系研究科化学専攻の准教授で、有機半導体、有機薄膜、高エネルギー炭素科学などの研究に従事し、さまざまな装置の開発にも携わってきた。

「理学も工学も化学的な研究においてはかなり成熟しており、原子・分子レベルで物質を制御・計測できる時代になってきました。建築に例えると、釘の種類や打ち方、どんな場合にどんな釘を使えばいいかといったことはある程度解明されており、むしろ重要なのは『どんな家を建てたらよいのか』という話になってきます。そういうレベルでは理学と工学の境界も曖昧になってくるので、理学系から工学系へのシフトは私の中では自然な流れでした」

島田教授は自ら装置開発を手がける機会が多く、それをきっかけにさまざまな研究プロジェクトへ発展する場合もある。現在、ダイヤモンドやカーボンナノチューブなど合成反応の制御が困難な物質や、高温・高エネルギー環境で使用できる触媒の開発などに興味を持っており、「これらの分野に必要とされる装置や設備はほとんど存在しないため、装置そのものをイチからつくらなければならない。」と語る。そんな島田教授が以前手がけた水分透過の測定装置開発は、装置開発の中でも特筆すべき成果のひとつだ。

水分の透過率を高感度で測定する装置を開発
フレキシブル有機デバイスの生産管理に大きく貢献

有機ELや有機太陽電池などフレキシブル有機デバイスの製造工程では、水分や酸素が有機半導体を劣化させ、寿命を著しく縮めることが知られている。このため、表面に水蒸気バリア性能を持つ材料をコーティングするのだが、そのバリア性評価のための測定技術の高度化が大きな課題となっていた。

こうしたニーズに応え、2009年、島田教授は企業との共同研究で有機薄膜のバリア性能を測定する装置を開発し、有機デバイスの製造分野に大きなインパクトを与えた。

「従来の測定装置では、結果が出るまでに数週間〜数ヶ月かかるうえ、感度も低く、製造現場の生産管理に用いるには不十分でした。私たちが開発した『水分透過量測定装置』は、長くても1週間程度で結果が得られるため、大幅な時間短縮を可能にしました」

高精度化と測定時間の短縮が実現できたのは、試料を透過してきた水蒸気を冷却トラップに捕集する仕組みを導入したためである。(解説1)

「冷却トラップに水分を吸着させ、水蒸気以外は排気した後、超高真空におかれた質量分析計で定量します。これにより検出器の感度が従来の300倍以上高くなります。いったん溜めて一気に測定するという、まったく新しい原理を採用したことが大きな成果につながりました」

フレキシブル有機デバイスのバリア性評価には10-6g/㎡/day、相対湿度に換算すると0.0000001%(大気との分子数比にして10-9)以下の水蒸気量を精度よく測定することが必要だが、本装置はこれを十分にクリア。試料測定後の残留水分除去も迅速に行えるようになったため、短時間での繰り返し測定も可能となった。水蒸気以外の気体も測定できることから、医療分野や食品分野での活用も期待されている。(脚注)

「測定時間が短く、繰り返し使用できるということは、製造現場での生産管理に活用できるということです。新しいコーティング材を開発しても、それを検査するのに半年近くかかっていたのではビジネスになりません。フレキシブル有機デバイスを使った製品そのものの開発スピードを考えても、バリア性評価の高度化とスピードアップは非常にニーズの高い技術だと思います」

産学官の協力が最大の効果を発揮
世界標準に向けた技術確立を目指す

本研究は、平成24年度の「戦略的基盤技術高度化支援事業(経産省)」に採択され、平成26年度を目標にさらなる高度化に取り組んでいる。

「本プロジェクトで目指しているのは標準化です。現状では、水の絶対量を測定することはできても、それを校正する手段がなかったため、得られた数値が合っているかどうかをチェックする基準がありません。私たちの研究では、産総研の特許技術である『標準コンダクタンスエレメント』(解説2)を用いて、質量分析計の校正に使用しています」

島田教授は、大学・産総研・企業の3者の連携があったことが装置開発のカギを握っていたと語る。

「それぞれに強みを持ち、互いを補い合って取り組めたことが大きかったと思います。企業は資金と人材と実験の場を提供し、産総研のグループは計量、つまり計る(量る)ことの専門家で超高真空に関する世界レベルの技術を持ち、大学は理論やシミュレーションを実施する。この3つが組んで初めてできたことであり、どれ一つ欠けても実現しなかったでしょう」

今後は、測定の精度向上に加え、測るための指標となる標準試料の開発にも取り組む予定だ。

「標準試料を確立することで、私たちの測定装置のみならず他メーカーの装置も適正な測定が行われているかのチェックを行うことができます。水蒸気透過量の標準値を特定することは、評価技術を進展させ、フレキシブル有機デバイスの生産管理向上に大きく貢献できると期待しています」

本プロジェクト以外にも多数のプロジェクトを同時進行させ、常に頭の中でアイディアを練っているという島田教授。装置の開発は自ら手を動かして試作することから始まるが、「さまざまな人と話し、共に研究活動を進めていくことは視野を広げて、研究の新しい扉を開くことが多いので、若い研究者の方や学生のみなさんには関わりを広く持つことを大切にしてほしいですね。」と語る。これまでに培った幅広い人脈は、島田教授の研究活動に欠かせない要素の一つになっている。


脚注 身の回りでは保存用ラップフィルムが102、一番バリア性が高いものとしては炭酸飲料ペットボトルの10-0となる。フレキシブル有機デバイス用はこれらの6桁~8桁下になる。
解説1 水分透過量測定装置の構成図
解説2 標準コンダクタンスエレメント

図1 水分透過量測定装置

図1 水分透過量測定装置

図2. 水分透過量測定装置開発のための原理検証実験を行った手動装置内部

図2. 水分透過量測定装置開発のための原理検証実験を行った手動装置内部
大気中の水分を遮断するためグローブボックスの中に装置を設置。1分単位で9個のバルブを4時間続けて手動操作し、原理を検証した。