すごいね!クールラボラトリー[研究者紹介]

教授 広吉 直樹
大学院工学研究院 環境循環システム部門
資源循環工学分野 資源再生工学研究室
教授 広吉 直樹
[プロフィール]
○研究分野/総合工学(地球・資源システム工学)、プロセス工学(加工物性・移動操作・単位操作)
○研究テーマ/鉱物処理工学、資源リサイクル工学、粉体工学、金属製錬工学

採掘時に発生する有害物質を効率よく分離して安定化し
ハイクオリティな鉱物資源の生産と環境保全に寄与

資源採掘時に発生する不要物による環境汚染を防ぐ

資源再生工学研究室は、北海道大学工学部創設時に設立された鉱山工学科に設置された研究室を母体としており、鉱山で採掘された鉱物の選鉱技術(有用な鉱物を無価値成分から分けて回収する技術)の研究開発を主に行ってきた。1990年代に入り、資源枯渇やリサイクルなどが社会問題化されると、都市部に蓄積されている未利用の資源をリサイクルする拠点としての「都市鉱山」などが注目されるようになった。それに伴い同研究室の研究領域も拡大し、現在は天然の鉱石の選別技術に加えて、都市鉱山のためのリサイクル技術・廃棄物の資源化技術の開発などにも取り組んでいる。

広吉直樹教授は、これらの研究の一環として、天然鉱物資源の高度分離精製と鉱山環境の悪化防止を同時に成し遂げる新しい技術の開発を行っている。

「例えばチリの銅山などでは、鉱石中の銅の含有量が1%ぐらいしかありません。99%以上は不要物となり、それらの大部分を選別して現地に置いてくることになります。このようにして鉱山に捨てられるものの中に黄鉄鉱という鉱物があります。黄鉄鉱は銅鉱物や石炭と一緒に採掘されるありふれた鉱物ですが、工業的価値が極めて低く、硫黄を含んでいるため石炭と共に燃焼すると酸性雨の原因となる亜硫酸ガス(SOx)が発生します。また堆積場に放置して風化すると硫黄分が硫酸となり周辺の環境を汚染することが懸念されています。21世紀に入り世界各国で資源の需要が急激に増加する中、環境へのインパクトを最小限に抑えながら、限りある資源を効率よく持続的に利用する技術の開発は重要な研究課題となっています」

広吉教授を中心とする研究チームが取り組んでいるのは「キャリアマイクロエンカプセレーション Carrier Microencapsulation=CME」(脚注1)と呼ばれる技術である。

「これは偶然の発見から生まれたものです。とある鉱物を酸で溶かす研究をしていた時に、ある種の有機物質を入れたら全く溶けない状態になり、調べていくとその鉱物がチタンの酸化物の薄膜で覆われていたのです。詳しく調べてみると、ベンゼン環を持つカテコールなどの成分がキャリアとなって不純物として含まれていたチタン鉱物から微量のチタンを移動させて被覆させたことが分かりました」

既存の技術を活かしつつハイクオリティな石炭を効率よく精製

CMEの画期的な点は、黄鉄鉱などの特定の鉱物を皮膜で覆うことで、鉱山で要求される2つの課題(価値のある鉱物と無価値な鉱物の選別精度を向上させること、鉱山周辺環境の悪化の原因となる黄鉄鉱の風化を抑制すること)を同時に解決できる可能性があることだ。広吉教授らは石炭と共に採掘される黄鉄鉱の分離除去にCMEを採用する技術を開発。モデル実験によりメカニズムと効果、最適施工条件などを明らかにした。(脚注2)

「CMEに必要な有機物質(キャリア)は石炭にも含まれているので、炭鉱では品質の悪い石炭から抽出して使うなど、その場にあるものを活用した閉じたシステムとして運用できる可能性があります。資源産業ではローコストでハイクオリティな資源を精製することが競争力となるので、従来の浮選技術をベースにしつつ、現場にあるものだけで実現できることはCMEの大きなメリットになると思います」

採掘現場で入手できる物質を使って、効率よく石炭から黄鉄鉱を分離・除去し、なおかつ風化を防ぎ安定的に保存できることは、石炭の高品質化と産炭地の環境保全の双方に大きく貢献する。世界的な資源需要の増大に伴い、鉱物資源の開発は大規模化の一途をたどっているが、海外の資源国は資源開発に伴う環境破壊に大きな懸念を抱いている。資源国から環境破壊を防ぐ技術供与が求められる場合、本研究は日本にとって優位性のある技術になるだろう。

北海道大学と九州大学は2017年4月から資源工学に関する共同教育課程である「北海道大学大学院工学院・九州大学大学院工学府共同資源工学専攻」を修士課程として設置。限られた鉱物資源を有効に活用して人類社会を将来にわたって持続・発展させていくため、科学・技術と社会・経済の双方にわたる高い知識と国際性を兼ね備えた、資源確保の未来を担うグローバル人材を養成することを目指している。

「近年の資源の研究では、幅広い分野の研究者と協働することがますます必要になってきているので、複数の大学が連携することで新しい展開が生まれるのではないかと期待しています」


脚注1 キャリアマイクロエンカプセレーション Carrier Microencapsulation(CME)の仕組み
黄鉄鉱は石炭組織中に微細に分散して存在することが多いのだが、従来の浮選法では粉砕され水に懸濁した黄鉄鉱粒子が石炭粒子と共に気泡に付着し、精炭中に紛れ込むという問題があった。CMEでは、浮選の前処理工程で黄鉄鉱粒子だけを親水性の二酸化ケイ素(SiO2)や酸化チタン(TiO2)の薄膜で覆い、黄鉄鉱と石炭を効率よく浮選分離する。この薄膜は捨てられた黄鉄鉱が水や空気と接触するのを防ぎ、黄鉄鉱の風化に伴う硫酸の生成を抑える。(図1参照)
脚注2 選択的薄膜形成技術を用いた石炭脱硫浮選の高効率化を鉱山酸性汚濁水の発生抑制

図1

図1. CMEを用いた次世代選炭処理技術の概要


写真1

石炭と黄鉄鉱