大成功!スマートコラボ[連携事例紹介]

教授 小笠原悟司 × 株式会社ダイナックス 部長 竹崎謙一
教授 小笠原悟司 × 株式会社ダイナックス 部長 竹崎謙一
左:竹崎謙一氏、右:小笠原悟司教授
大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻
システム融合情報学講座 電気エネルギー変換研究室
教授 小笠原悟司
[プロフィール]
○研究分野/電気電子工学(電力工学・電力変換・電気機器)
○研究テーマ/パワーエレクトロニクス、電動機制御、EMI/EMC、エネルギー変換

■対談相手

株式会社ダイナックス 開発本部
モジュール開発部 部長
竹崎謙一

大学の頭脳と企業の技術力の効果的な連携が実現
次世代自動車用モータの実用化に大きく貢献

NEDOの成果に企業が着目
実用化・量産化を目指した共同研究へ

2014年2月、札幌ドームで開かれた「札幌モーターショー2014」。北海道・中小企業基盤整備機構北海道本部ブースに株式会社ダイナックスが出展した「レアアースレスインホイールモータ」(図1)が展示された。大学院情報科学研究科電気エネルギー変換研究室と共同で開発したEV/HEV(電気自動車/ハイブリッド自動車)用の駆動モータである。レアアース(希土類元素)とは、EV/HEVのモータに一般的に使われているネオジム磁石(解説1)の材料となるもので、近年はレアアース生産の90%以上を中国に依存しており、価格高騰や輸出規制などの問題からレアアースを使用しない(レアアースレス)安価なモータの利用が望まれている。レアアースレスインホイールモータは、そうした社会的ニーズに応える技術であり、さらに実用化への道を切り拓くものとして各方面から注目を集めた。

レアアースレスモータのベースは、同研究室が2008〜2011年に参画した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代自動車用高性能蓄電システム開発プロジェクト」から誕生した。プロジェクトでは、レアアースを使わない新構造の50kwハイブリッド自動車用フェライト磁石モータ(解説2、図2)を開発。この研究成果に着目した国内最大手のクラッチ板メーカーであるダイナックスが同研究室に共同研究を打診、レアアースレスモータの実用・量産化を目指した研究がスタートした。

ダイナックス開発本部モジュール開発部部長の竹崎氏は「当社では2008年頃から新商品開発を模索しており、北大のレアアースレスモータに可能性を感じました。私たちにはモータ開発の経験はありませんが、クラッチ製造を通じた機械設計の技術は持っており、それが応用できるのではないかと考えました」と語る。小笠原教授も「NEDOのプロジェクトが終了し、できればこれを社会に役立てたいという気持ちがあったので、より実用化に近い研究ができることは大きな魅力でした」と期待を寄せた。

設計力と技術力の融合から生まれた
モータ効率と回転子強度の両立

共同研究では、同研究室がモータの設計を、ダイナックスが製造と量産のための技術開発を担当。レアアースレスモータを搭載するEV/HEVは、次世代車両として注目されているシティコミューターをターゲットとした。「シティコミューターはカーメーカー以外にもベンチャー企業などが参入できる余地があり、そういう市場を狙った方がよいと考えました」と竹崎氏。四輪と二輪の中間的な位置づけにあるシティコミューターは、1人乗りもしくは2人乗りの小型車だが、デッドスペースとなっているホイールの内部にモータを配置(インホイール)することで居住スペースを確保できる。また、レアアースレスとインホイールを組み合わせた事例はなく、他社との差別化ができるという利点もあった。
小笠原教授は「フェライト磁石はネオジム磁石に比べ磁力が弱く、さらにモータだけでトルクを出すのは難しいのですが、減速機と組み合わせてインホイールモーターにすることで必要なトルクを得ることができました。これは非常に大きな成果だったと思います」

最大の難関は、モータの効率と回転子の強度を両立させることだった。このモータは一般的な円筒型のモータとは異なり、円板状に配置された回転子と固定子が対向して回転するアキシャルギャップ型モータである。高速回転させると円板の外側に強い遠心力がかかるため、それに耐え得る強度を持たせることが設計上の課題となった。これに対しダイナックスでは、回転子の外側にFRP(繊維強化プラスチック)をコーティングすることで素材の強化を図った。竹崎氏は「樹脂をコーティングする技術はクラッチ製造にも使われており、当社のノウハウを応用することができました」と語る。回転子の強度がクリアできたことでモータは一気に完成に近づいた。

認知度を高め量産化に道筋を
異分野とのコラボレーションにも期待

2014年2月、レアアースレスインホイールモータの開発は当初の目標を達成し、共同研究も完了となった。量産化技術について竹崎氏は「量産化とコストの面では難しい部分が多く、実際に大量生産できるレベルには達していませんが、いずれクリアできると考えています」と手応えを感じている。今後は、モーターショーなどに積極的に出展し、認知度を高めていく計画だ。

今回の共同研究について小笠原教授は、「研究室で試作機を作るだけでなく、実際に製品を作るときにどういう観点が必要かを学ぶことができました。ダイナックスの設備を利用した破壊試験に立ち会えたことも貴重な経験でした」と振り返る。
一方、竹崎氏は「北大との連携がなかったらこのような成果は上げられなかったと思います。企業が大学と同様の頭脳(人材)を育成・保持することは難しく、大学と協力することで効率のよい開発が可能になると考えます。お互いの得意分野を持ち寄って、よりよいものを作っていくことが重要ですね」

また、同研究室ではモータ以外の異業種と共同研究できたことにも大きな意義を見出している。大学と企業という枠組みだけでなく、分野を超えたコラボレーションが新たなブレイクスルーをもたらすのではないかと期待しており、今後さまざまな機械メーカーとの連携も視野にいれていく考えだ。


解説1 ネオジム磁石
ネオジム磁石は「ネオジム」や「ジスプロシウム」などの希土類元素(レアアース)から作られる永久磁石で、非常に強い磁力を持つ。ハイブリッド自動車用モータの他、HDDや携帯電話、パソコンなど多くの家電製品に使われている。近年はレアアース生産の90%以上を中国に依存しており、価格高騰や輸出規制などの問題が浮上し、安定供給とコストダウンが図れるレアアースを使用しない安価なモータの利用が望まれている。
解説2 レアアースを使わない新構造の50kwハイブリッド自動車用フェライト磁石モータ
フェライト磁石は棒磁石や小型モータ、家庭やオフィスで使われるマグネット製品など一般的に普及している磁石で、価格はネオジム磁石の10分の1程度。レアアースの代替材料としての可能性が期待されている。同研究室では2008年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が立ち上げた「次世代自動車用高性能蓄電システム開発プロジェクト」に参画し、03年モデルのプリウスの駆動用モータと同体積で同出力が得られるフェライト磁石モータの開発に成功した。

レアアースレスインホイールモータ

図1. 「札幌モーターショー2014」での「レアアースレスインホイールモータ」展示のようす

フェライト磁石モータ

図2. フェライト磁石モータ