2012年10月25日

【研究紹介】土壌中の環境放射性核種 ~ラドンを知る~

研究紹介 — 3:27 PM

大学院工学研究院量子理工学部門・准教授 藤吉 亮子

(1)研究者のアピールポイント

研究室のスタッフ、学生はじめ周りの多くの人達に支えられ現在の自分がある。人間は一人では生きてゆけないと実感している。研究は生活の重要な部分を占め、それはまだ続くと思う。自然に感激する心を忘れないこと。

 

(2)本発表研究の概要

身の回りに存在する多くの放射性核種(環境放射性核種)のうち、常温常圧で気体(放射性気体)であるラドンについてその正体を明らかにするとともに、人間とのいろいろな関わり(良い面と悪い面)を紹介する。地表面下で発生して移動するラドンを追跡するとどのようなことが明らかになるか最近の研究結果をもとに解説する。

 

(3)本研究発表の詳細

喫煙に次いで高い肺ガンの要因として、ラドンは欧米諸国において最も注目されている放射性核種である。ラドンによる健康被害を低減するため、EU諸国では国ごとに独自にラドン放射能濃度を測定し、その結果をマッピングする努力がなされてきた。しかし、測定法や測定対象(屋内なのか土壌なのか等)は国の事情により大きく異なる。最近、EC (European Commission) が中心となって統一的な測定手法の確立、測定およびマッピングに向けた動きが活発になっている。特に、チェコ共和国(地質調査所およびRadon EU) のラドン測定・評価技術はすぐれており、彼らは国内にラドンフィールドを設けて定期的に測定法および測定結果のクロスチェックを行っている。一方、日本、特に北海道においてラドンの測定はほとんど行われていない。また、ほとんど注目もされていない。人為的介入の比較的少ない森林(北海道、スロベニア)においてラドン(および他の土壌空気成分)のモニタリングを継続している(図1)。特に、冬季積雪期におけるラドンの挙動を明らかにして、北国における環境パラメータを確立することをめざす。

 

 

 

 

 

 

図1 森林土壌における222Rnおよび地温の継時変化

 

 

(4)本発表の注目点

ラドンは放射性気体であり、系列を作る天然放射性核種の壊変生成物である。半減期3.8日の222Rnは放射線被ばくという面で人間に有害な影響をもたらす半面、土壌空気の地表面への動きを知るための有用なパラメータとなる。

2012年10月18日

【研究紹介】耐氷点下起動性に優れた固体高分子形燃料電池の開発 ~電池内マイクロナノ凍結現象の解明~

研究紹介 — 11:26 AM

大学院工学研究院エネルギー環境システム部門・准教授 田部 豊

 

(1)研究者のアピールポイント

多様なエネルギーシステムの持続可能なベストミックスを実現するための専門集団であるエネルギー環境システム部門の一員として,広い視野を持って,エネルギー問題,地球温暖化問題の解決を目指しています.

 

(2)本発表研究の概要

固体高分子形燃料電池の寒冷地利用において,反応により生成した水が凍結し性能低下を引き起こすことが問題となる.本研究では,マイクロナノスケールである反応層近傍の凍結現象について,超低温型電子顕微鏡による可視化や電気化学測定を用いて解明することにより,耐氷点下起動に優れた電池の開発を行っている.

 

(3)本研究発表の詳細

固体高分子形燃料電池は,次世代の自動車等の移動動力用電源,民生用の定置型分散電源他,多くの分野において,高効率でクリーンなエネルギー変換機器として普及が期待されている.この燃料電池の氷点下環境起動では,生成した水が凍結し,発電停止,劣化を引き起こすため,電池内の凍結現象を明らかにすることは,電池性能および耐久性向上のために極めて重要となる.

反応による生成水は,下の左図のように数十nmの径である触媒層空隙を通り,数μm径の空隙を有する多孔膜であるマイクロポーラスレイヤー(MPL)を介して,ガス拡散層・ガス供給チャネルへと排出される.この過程の超微細多孔体の中で,水がどの部位で凍結し,どのような機構で性能停止および経年劣化に繋がるかを微視的観察,電気化学測定,触媒層モデル解析により解明し,耐起動性の向上や超寿命化を達成することを目指している.下の中図は触媒層が氷で埋められている様子,右図は解析でモデル化している触媒層の構造模式図である.

 

 

 

 

(4)本発表の注目点

普段見ることのない超微細構造内の凍結現象をぜひご覧下さい.微視的観察,電気化学測定,触媒層モデル解析を駆使する極めて独創的な本試みは,札幌のような寒冷地での燃料電池の普及に役立つものと考えています.

2012年10月11日

【研究紹介】微分不可能ダイナミクスが導く新しい制御

研究紹介 — 5:00 PM

大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻・教授 山下 裕

 

(1)研究者のアピールポイント

システム制御に関する理論・技術全般、特に非線形システムの制御理論の研究が専門。その他、インターネットなどの伝送遅れをループ内に含む制御や移動体の制御などさまざまな研究に従事。

(2)本発表研究の概要

近年、フィードバックに微分不可能な関数を含めることで、制御系の性能を向上させたり、制御系設計における困難さを克服したりすることが可能であることがわかってきた。ひとつは局所的な収束性能の向上であり、もうひとつは大域的な性質の改善である。本発表ではこれらについて、簡単に説明する。

(3)本研究発表の詳細

まず、微分不可能制御則の効用を、2つに分けて説明する。1つは局所的な収束性能の改善であり、原点で無限大のゲインを持つフィードバックによって、連続時間有限整定制御や厳密微分器が可能であることを示す。対象が線形システムの場合、数学的に美しい制御はやはり線形制御であるが、微分不可能制御則を用いたほうが人間にとって望ましい応答であることが多い。また、厳密微分器を用いれば、単なる差分よりノイズが少なく、またフィルタの遅れがない微分動作が可能であることが示される。もう一つは、制御対象の大域的な構造に起因する困難さを克服する手段としての微分不可能制御である。剛体の回転運動の制御や、移動ロボットの障害物回避問題においては、「どちらに回るのがよいのか?」という意思決定における分岐点が存在し、そこでは制御則は不連続にならざるを得ない。本研究室では、そのような問題に対しシステマティックに数式だけの世界でその不連続フィードバックを導く汎用的な方法を研究している。例題として移動ロボットのIF-THENルールを使わない障害物回避制御を示す(図)。

 

 

 

 

 

 

(4)本発表の注目点

今まで最善と思ってきた線形制御の指数的収束がはたして本当に望ましいのか?それに対する一つの提案を示す。また、大域的制御においてIF-THENルールやMAPを人間がいちいち作ることの批判と、大域的制御のシステマティックな構成に対する一つの数学的な回答を示す。

2012年10月5日

【研究紹介】アンテナ信号処理技術を用いた無線通信システムの高度化 ~チャネル予測による下り回線マルチユーザMIMOシステムの特性改善~

研究紹介 — 5:33 PM

大学院情報科学研究科
メディアネットワーク専攻・教授 小川 恭孝

 

 

(1)研究者のアピールポイント

本研究者は,アンテナ信号処理技術の我が国におけるパイオニアである.本研究者は1980年代初めに,この技術の移動通信への応用に関する研究を開始し, PHSの空間分割多元接続の商用化に貢献した.

 

(2)本発表研究の概要

基地局が複数のユーザ端末と同時に通信を行うマルチユーザMIMOシステムは,動的フェージング環境の場合,ユーザ間干渉とストリーム間干渉が残留し,特性の劣化が生ずる.本発表では,下り回線信号送信時刻のチャネルを予測することにより,特性改善が可能となることをチャネルの測定結果を基に明らかにする.

 

(3)本研究発表の詳細

送受信機双方に複数のアンテナを設置するMIMO (Multiple-Input Multiple-Output) システムは,チャネル利用効率を向上させることが可能である.図に示したように基地局が複数のユーザ端末と同時に通信を行うマルチユーザMIMOシステムも鋭意検討されている.しかし,下り回線マルチユーザMIMOシステムにおいては,ユーザ間干渉とストリーム間干渉が重大な特性劣化を引き起こすことになる.これらの干渉を除き,伝送速度を向上するため,ブロック対角化法と固有ベクトルビーム空間分割多重伝送が用いられる.これを実現するためには,基地局において下り回線チャネル情報が必要となる.実際の下り回線信号送信時刻はチャネル推定時刻よりも遅れているため,動的フェージング環境では,その間の遅延によりチャネルの変動がおきることになる.その結果,ユーザ間干渉とストリーム間干渉が残留し,特性の劣化が生ずる.本発表では,推定されたチャネルを用いて,実際の下り回線信号送信時刻のチャネルを予測することにより,下り回線マルチユーザMIMOシステムの特性改善が可能となることを,チャネルの測定結果を基に明らかにする.

 

(4)本発表の注目点

通信に信号処理技術は広く使われているが,これまでは主に,時間領域と周波数領域に関するものであった.本研究者が検討している,複数のアンテナによる空間領域信号処理はチャネルの利用効率を著しく改善する.

2012年10月2日

【研究紹介】光による体内構造および機能の透視イメージング

研究紹介 — 9:43 AM

大学院情報科学研究科 生命人間情報科学専攻・教授 清水  孝一

 

(1)研究者のアピールポイント

光は体を透過せず、数mm厚み以上の透視は無理と考えられている。本研究は、強散乱体内部の透視実現をめざすとともに、既存透視技術とは異なる生体機能の分布を得て医療・医学への応用をめざすものである。

 

(2)本発表研究の概要

空間光差分および時間分解計測によって、生体透過近軸散乱光が検出可能なレベル実在することを示してきた。これを利用して生体内の強い光散乱効果を抑制することにより、体内吸光構造の透視や断層イメージングを可能としてきた。また、スペクトル解析や蛍光を利用することにより、生体機能の無侵襲イメージングを実現してきた。

 

(3)本研究発表の詳細

生体の裏側より光を照射し、表側から観察する。近赤外光のように生体組織における吸収が比較的小さい光の場合には、観測側に透過光が得られる。この光は、生体組織における強い光散乱により、拡散されて透過して来る。これにより、ラット脳機能を無侵襲的にとらえることができる。たとえば、脳内血流変化、脳内酸素化状態変化のイメージングが可能となる。体性感覚刺激に伴うラット大脳の局所的血液量変化をFig.1に示す。

生体に光を入射すると、生体組織の強い光散乱性のため入射光は体内に拡散し、その一部が後方散乱光として入射側に戻って来る。この戻る光が後方からの照明光となり、体表付近の吸光物体が、皮膚を介してイメージングされる。ただし通常の光入射法では、体表面における散乱性反射光の強度が強く、内部からの光を観測することは難しい。この問題を解決するため、蛍光物質を利用する。Fig.2にPSFデコンボルーション法により改善したラット頭部の経皮蛍光像を示す。脳表を走行する主要血管を中心に蛍光分布が観察される。また画像改善により矢状静脈や横行静脈をはじめ、脳血管が明瞭になることがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

(4)本発表の注目点

従来不可能と考えられてきた光による強散乱体の透視が実現できると、どのようなことが新たに可能となるか。医学・医療のみならず、種々の分野で新たな応用が考えられる。

北海道大学 工学系連携推進部 renkei@eng.hokudai.ac.jp