陽子線治療システム

最先端陽子線治療システムの研究開発

本研究テーマでは、現在北大がX線治療で培った「動体追跡技術」と、㈱日立製作所が初めて臨床に応用した(米国MD Anderson病院にて)「スポットスキャニング型陽子線照射技術」を融合し、医工連携、産学連携で動きのある体内深部臓器の大型腫瘍でも正確に照射できる世界初の「分子追跡陽子線治療装置」を開発しました。工学研究院は装置とシステム全般の研究開発を医学研究科放射線医学分野、北海道大学病院医学物理室と協力して進め、本システムの開発と臨床への適用を実現しました。引き続き、日本の放射線医療・がん治療技術の発展に貢献すると共に、世界の粒子線治療技術の普及に寄与していきたいと考えています。

1. スポットスキャニング陽子線治療装置の概要

陽子線ビームはシンクロトロン加速器を用いて加速します(図1,2)。治療に利用する陽子線ビームには、ビームを広げて削り取るといった従来の散乱体/コリメータ利用方式を用いず、スポットスキャニング照射方式に特化しています。このスポットスキャニング照射方式は、ターゲットのがん病巣の形状に合わせて、一筆書きのようにビームスキャンをしながら照射する方法です。病巣の形状に合わせて集中して照射し、正常組織への照射を低減できるという利点があります(図3)。また、スポットスキャニング照射方式に特化した結果、散乱体によるエネルギー損失がなくなり、体内飛程(陽子線到達深さ)確保に必要な最大加速エネルギーを低減すると共に、加速器の蓄積電荷を大幅に低減することが可能になります。スキャニング方式によって陽子ビームの利用効率を大幅に向上することで、被曝につながる中性子等の漏洩放射線量を大幅に抑えると共に、シンクロトロン加速器、ガントリーのサイズを従来に比べて小型化することが可能になりました。また、治療施設については、建屋全体を3次元でモデル化し、3次元モンテカルロ法計算に基づく最適遮蔽設計により、設置面積を従来の7割程度に縮小した建屋構造を実現しました(図4)。その結果、敷地面積を1000m2程度として北大病院既存敷地内(旧駐車場)に建設することが可能になりました。このような設計により、小型化した陽子線治療施設を総合病院の一画として設置し、総合的がん治療の一翼を担う環境にすることに道が開けたと考えています。
  • 図1シンクロトロン図1 陽子線加速器(シンクロトロン)
  • 図2入射器図2 陽子線加速器(入射器)
  • 図3照射方式比較図3 陽子線ビーム照射方式の比較
  • 図4小型化図4 陽子線治療システムの小型化

2. 動体追跡技術とスポットスキャニング照射技術の融合

リアルタイムでX線透視をしながら、目的位置にがん病巣が来たときのみにゲーティング照射をする動体追跡装置を小型ガントリー内に搭載し、陽子線スポットスキャニングと動体追跡の融合を実現しました(図5)。動体追跡技術との相補的な臨床価値の向上を目的に、ガントリー搭載のX線撮像系によるコーンビームCT撮影機能及び高位置精度6軸ロボット寝台を中心とする高精度画像誘導位置決めシステムを開発しています。装置開発と並行して、過去の動体追跡治療で得られた体動データに基づき、最適なシンクロトロン制御方法や動体追跡時のスポットスキャニング照射における線量分布の一様性、照射効率の向上の研究を進めています。また、X線治療で経験した実症例に基づいて陽子線線量分布をシミュレーションして、線量分布の比較評価を行い、治療計画のレビューを進めています(図6)。
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    図5 陽子線治療システムガントリー
  • 図6線量分布図6 陽子線治療計画の線量分布計算例

3. 現在進めている主な研究テーマ

実際の装置の開発や運用をサポートしながら、現在進めている主な研究テーマは以下のようになります。
  1. (1) 低エネルギービームの線量分布向上に関する研究
  2. (2) 動くがん病巣に対する線量分布の一様性、照射効率の向上に関する研究
  3. (3) 位置精度や病巣の動きにロバストな治療計画技術の研究
  4. (4) CBCT(Cone Beam CT)を用いた治療時可視化と治療精度向上の研究
今後も陽子線治療の高度化に関わる重要な研究テーマを医工連携、産学連携で推進していきます。

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