背景写真:ナノ粒子により描かれた北海道」の透過電子顕微鏡写真

背景写真:
「ナノ粒子により描かれた北海道」の透過電子顕微鏡写真


加熱TEMその場観察法


透過型電子顕微鏡を用いて、その中に加熱プローブを入れて試料を直接加熱しながら「その場観察」する手法がある。それを加熱TEMその場観察という。本研究室では、ナノ粒子の加熱TEMその場観察を行っている。

ナノ粒子の研究のなかで、透過型電子顕微鏡観察は欠かせない評価法として常に利用されている。TEMの明視野像がその形状やサイズを示しているだけではなく、制限視野回折(SAED)のパターンと暗視野像が結晶状態を示してくれる。また、エネルギー損失スペクトル(EELS)、特性X線スペクトル(EDX、EDS)は元素分析、原子の電子状態、結合状態の情報を与えてくれるなど、ナノ粒子の微細構造・組織形状・その状態など詳細な分析を行うために不可欠である。ナノ粒子、微粒子のTEM観察用試料は一般に図に示すようにカーボン膜がコートされたTEMグリッドにサンプル液を置いて乾燥させることでつくることができる。非常に容易である。

TEM観察自体は電子を用いた顕微鏡であるから、通常高真空下で行わなければならない。多くの場合、材料の変化を電子顕微鏡で観察したいときには、材料の変化の前後のサンプルを作り、観察して比較し、その違いから変化の過程、メカニズムを考察していた。しかし、その過程を直接観察できたらどれだけ面白いだろう。最近、TEM内部で機械的な応力や電場、磁場、温度を加えたり、外からガスを導入して雰囲気制御しながら試料の変化を直接観察するためのアタッチメントが登場してきた。そのなかで、当研究室では金属ナノ粒子・微粒子の加熱TEMその場観察を行ってきている。

加熱TEMその場観察においては、フィラメントヒーターが取り付けられた図のような試料ホルダーを用いる。そして、下図のようなシステムで観察する。細い管は、外からガスを導入するために付けられている。フィラメントに直接微粒子を塗布したり、フィラメントにカーボンコートしてナノ粒子を乗せることで観察試料とする。このフィラメントに電流を印加して加熱する。加熱部位がフィラメントのみであることから熱容量が小さいために、急速加熱が可能である。当研究室では、研究室にあるLaB6タイプのTEM(300kV)を用いて、ナノ粒子・微粒子の加熱TEMその場観察を行った。TEM鏡筒内の真空度は一般に10-5 Pa程度であるが、当研究室では10-3 Pa程度にまでガスを導入して観察した。

コンペイトウ型白金ナノ粒子の加熱TEMその場観察2)

ポリアクリル酸ナトリウムを用いることで、コンペイトウ型Ptナノ粒子を合成した。こうした微粒子は触媒・燃料電池などに用いることができる可能性が高い。当研究室ではこのナノ粒子の加熱TEMその場観察を行った。

まず、外からガスを導入せず、鏡筒内を10-5 Pa程度に保って加熱した。その結果では、300℃で粒子の表面にコントラストが現れた。このコントラストは、表面保護剤であるポリアクリル酸ナトリウムであるが、加熱されたために炭化物被膜となっていると考えられる。その後、700℃程度まで形状変化なく、800℃ではじめて粒子の角のとがった部分が変形したり、粒子同士の融合が接触部で見られた。つまり、炭化物被膜が分解するようになるまでナノ粒子の形状変化が起こらないということである。

このような現象は、たとえばカチオン性界面活性剤で保護された金や銀ナノロッドでも報告されていて (Khalavka et al., J. Phys. Chem. C, 111, 12886 (2007)) 、ナノ粒子表面に有機物がコーティングしている場合、そのまま電子顕微鏡内で加熱すると、その表面有機物が炭化物被膜となって、ナノ粒子の高温での形状変化を抑制するのである。

金属銅微粒子の加熱TEMその場観察

金属微粒子・ナノ粒子をインクやペーストにし、印刷技術を用いて電子回路を作る「プリンテッドエレクトロニクス」が脚光を浴びている。こうした用途に用いられるナノ粒子の高温挙動は、焼結過程を考察する上でも非常に興味深い。銅微粒子の場合には、銀と違い、表面酸化を防ぐために有機コート膜を必要とする場合が多い。

当研究室ではこれまで、ゼラチンを保護剤に用いて銅微粒子・ナノ粒子を合成している。3-5)今回はさらに微細なナノ粒子から構成される微粒子の加熱TEMその場観察を行った。6)

ゼラチンを保護剤とし硫酸銅から合成した、1ミクロンに近いの大きさをもつ微粒子は数nmの直径を持つ銅ナノ粒子の集合体である。この微粒子を電子顕微鏡内、3.5×10-5 Paの真空度で加熱すると、表面のゼラチン層が炭化物被膜となってのこってしまい、粒子同士が焼結されず、最終的に炭化物被膜が分解するような高温で銅が昇華(もしくは蒸発)する。6)これはコンペイトウ型白金ナノ粒子で見られた現象と同様である。2)しかしながら、鏡筒を8×10-4 Paの酸素雰囲気で保持すると、330℃で表面をコートしたゼラチンが焼失し、ナノ粒子が焼結して粒子表面が滑らかになり、さらに高温でネッキングし2つの粒子が焼結して接合されることが明らかとなった。

ゼラチンに保護されたCuナノ粒子で構成される2次粒子をフィラメント上で加熱してその場観察して得たTEM像。(a)~ (c)は真空中(3×10-5 Pa)(d)~(f)は、鏡筒中に酸素ガスを導入した場合(8×10-4 Pa)での観察結果6)

ゼラチンに保護されたCuナノ粒子で構成される2次粒子をフィラメント上で加熱してその場観察して得たTEM像。(a)~ (c)は真空中(3×10-5 Pa)(d)~(f)は、鏡筒中に酸素ガスを導入した場合(8×10-4 Pa)での観察結果6)

また、CuOを原料として合成した、ゼラチンに保護された比較的大きな銅微粒子を鏡筒内の真空度4×10-3 Pa(試料近傍は~10-1 Pa)まで酸素を導入して加熱すると、140℃以上で、Cu2Oが生成することが明らかとなった。7)

このように焼結には酸素分率と温度の制御が重要であることが示された。さらに、加熱TEMその場観察で、導電性付与に重要な還元焼結挙動についても観察した。8)

酸化銅から得られたゼラチンによって保護された微粒子の加熱TEMその場観察結果。(a) ~(c) O2ガス雰囲気下(4×10-3 Pa)で加熱した場合の各温度のTEM像。矢印部分に突起が見える。(d)加熱後の粒子表面の突起部分の高分解TEM像。Cu2Oになっていることがわかる。7)

酸化銅から得られたゼラチンによって保護された微粒子の加熱TEMその場観察結果。(a) ~(c) O2ガス雰囲気下(4×10-3 Pa)で加熱した場合の各温度のTEM像。矢印部分に突起が見える。(d)加熱後の粒子表面の突起部分の高分解TEM像。Cu2Oになっていることがわかる。7)

針状ニッケルの高温TEMその場観察3)

ニッケルイオンから錯体などを経て還元することで、針状ニッケルの集合体であるウニ型ニッケルナノ粒子を合成した。一般に異方形状をもつナノ粒子の合成にはポリマーなどのテンプレートを必要とするが、この場合は溶媒以外の有機物を含まない系で合成できた。

このナノ粒子の加熱TEMその場観察を行った。酸素を導入し、鏡筒内の真空度を4 × 10-3 Pa(試料近傍は10-1 Pa程度)とした場合には、350℃で針状ニッケルの表面に微細な凹凸が観察され、これはニッケルの酸化によって生じたものと考えられる。一方、酸素などを外部から導入しないで、鏡筒の真空度を3.5 × 10-5 Paに保って加熱した場合、高温でも表面酸化されず、また、当然ながら炭化物被膜も形成されず、350℃程度で構造変化が見られている。このように、有機物フリーであれば、金属ナノ構造体のそのままの高温での変化を観察することができる。

Fig3

(a)合成したウニ型ニッケルナノ粒子のSEM像。その針状部分の加熱TEMその場観察によって得られた像。(b-c)酸素を導入して観察した。350℃で変形と表面の凹凸が見られる。(d-e)酸素を導入製図観察した。350℃で少々変形みられる。

銀ナノ粒子の融点の決定

さらに、我々は銀ナノ粒子の加熱TEM観察を試みた。低温焼結性インクの加熱TEM観察を行ってみたところ、表面にある有機物は炭化してしまいTEM像にくっきりと見えていた。
そこで、銀を電子顕微鏡内で蒸発させ、視野にあるフィラメントの上においた金属酸化物粒子上にナノ粒子として堆積し、それを加熱してその場観察した。9)

銀を電子顕微鏡内で蒸発させ、それを金属酸化物粒子上にナノ粒子として堆積させる方法。このナノ粒子の加熱その場観察を行う。9)

銀を電子顕微鏡内で蒸発させ、それを金属酸化物粒子上にナノ粒子として堆積させる方法。このナノ粒子の加熱その場観察を行う。9)

このとき、金属酸化物粒子上にある銀ナノ粒子は有機物層を持たないいわゆる裸の銀ナノ粒子であるから、金属の挙動をそのまま見ることが可能である。その結果、粒子径に応じて、その融点が変化することを観察できた。しかし、20 nm以上の粒子の融点はそれほど変化なく、これは結晶子サイズが影響しているものと考察された。

銀ナノ粒子の粒子径と融点との関係。点線は理論値である。9)

銀ナノ粒子の粒子径と融点との関係。点線は理論値である。9)

  1. 成島隆、米澤徹「金属ナノ粒子の形状変化の高温その場TEM観察」、顕微鏡、印刷中(2014) (本文献をこのページ全体の参考資料とした。)
  2. Takashi Narushima, Takuya Makino, Tomoharu Tokunaga, Tetsu Yonezawa, “Observation of Microstructural Changes in Polymer-Coated Kompeito-Type Platinum Particles by In Situ Heating TEM”, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 12(3), 2612-2616 (2012)
  3. Masanori Tomonari, Kiyonobu Ida, Hiromi Yamashita, Tetsu Yonezawa, “Size-controlled oxidation-resistant copper fine particles covered by biopolymer nanoskin”, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 8(5), 2468-2471 (2008)
  4. Tetsu Yonezawa, Shinsuke Takeoka, Hiroshi Kishi, Kiyonobu Ida, Masanori Tomonari, “The preparation of copper fine particle paste and its application as the inner electrode material of a multilayered ceramic capacitor”, Nanotechnology, 19(14), 145706 (2008)
  5. 成島隆, 吉岡隆幸, 宮崎英機, 菅育正, 佐藤進, 米澤徹、「マイクロ波液中プラズマ法による銅微粒子の合成」日本金属学会誌, Journal of the Japan Institute of Metals and Materials, 76(4), 229-233 (2012)
  6. Takashi Narushima, Atsushi Hyono, Naoki Nishida, Tetsu Yonezawa, “In-Situ Heating TEM Observation of Microscopic Structural Changes of Size-Controlled Metallic Copper/Gelatin Composite”, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, 12(10), 7764-7776 (2012).
  7. Takashi Narushima, Hiroki Tsukamoto and Tetsu Yonezawa, “High temperature oxidation event of gelatin nanoskin-coated copper fine particles observed by in situ TEM”, AIP Advances, 2(4), 042113 (2012)
  8. Kiyonobu Ida, Masanori Tomonari, Yasuyuki Sugiyama, Yuki Chujyo, Tomoharu Tokunaga, Tetsu Yonezawa, Kotaro Kuroda, Katsuhiro Sasaki, “Behavior of Cu nanoparticles ink under reductive calcination for fabrication of Cu conductive film”, Thin Solid Films, 520(7), 2789-2793 (2012).
  9. Tetsu Yonezawa, Shigeo Arai, Takeuchi Hironori, Takeo Kamino, Kotaro Kuroda, “Preparation of naked silver nanoparticles in a TEM column and direct in situ observation of their structural changes at high temperature”, Chemical Physics Letters, 537, 65-68 (2012).